<前編はこちら

前編でも述べたように、オタク系音楽が盛り上がってるひとつの大きな要因は、日本の一般の歌謡音楽文化の衰退にあると思います。

日本の歌謡曲に元気がなくなった。それはなぜでしょう?現に私は昔と違って一般的な歌謡曲はほとんど聴かなくなりました。それは私が歳をとったということも あるでしょうが、それにしてはオタク系の音楽は相変わらず聴いています。なぜそうなったかと考えるといくつかの原因を想像する事ができます。

後編ではなぜ日本の歌謡界は駄目になってしまったか、そしてその中でなぜオタク系の音楽文化だけが例外になり得たのか。その当たりを考えていってみましょう。


■歌謡曲はなぜ聞かれなくなったのか。


最近の若者は音楽を聴かない。音楽文化は廃れているとかよく言われますが、私は全然そうは感じないんですけどね。若者は今の時代も音楽に魅力を抱いていると思いますよ。ただ、我々の世代のように歌謡曲に触れる機会が減ってしまっているだけなんだと私は思います。

オタク系音楽と今の一般の歌謡曲との決定的な違い、それは露出度の違いです。

そもそも、曲とはある程度露出がないと聞かないものです。どこかで耳にする機会がないと、存在すら認識できません。音楽とは耳に入って、良い曲だなあと思えて初めて買おうと思うものなのです。


■極端な著作権保護が音楽文化を衰退させる。


最近は歌謡曲を耳にする機会がすっかり減ってしまったような気がします。今日のように著作権でガチガチに固められた社会環境では、音楽に触れる機会もなく、どんな名曲も知られぬまま埋もれていってしまいます。音楽著作権管理団体は、音楽業界の発展を妨げてまで著作権を守る事に固執しています。彼らは音楽文化がどうなろうろ知ったことではないのです。彼らは著作権を守らせる事が仕事で あって、それにより音楽文化が衰退しようがどうしようが関係ないのです。

最近は街の中で歌謡曲を聴かなくなりました。昔は飲食店の店内な どで店員が持ってきたCDなどを流していました。それを聞いて、良い曲だなあと思い買ってみたなんて事もありました。しかし著作権管理団体がせっせとそう いうお店を訴え続けた結果、歌謡曲を流す店はなくなりました。街から歌謡曲が消えたのです。

今、店で歌謡曲を流しているのは高いお金を払ってUSENを入れているお店だけです。店独自のテーマソングが作られ流行っているのはその影響もあってだと思います。自ら作った曲であれば著作権管理団体に文句言われませんからね。


■著作権団体が音楽文化を食い尽くす。


音楽著作権団体のあくどい所は、コピー商品を売って商売しているような、質の悪い連中を訴えるより、店で音楽を流していたり、演奏していたりといった比較的微罪と呼べるようなレベルの者たちを訴えるという所です。音楽著作権団体にとってはそういう相手のほうが叩きつぶしやすいし、「あんな微罪でも捕まるんだから、 俺たちも相当ヤバイんじゃなか」という事を周囲にアピールできるからだと言います。

微罪で訴えられた店が出た場所の一帯は、あっという間にそういうった著作権違反を止めるそうです。効率でいえば、これだけ効率の良い取り締まり方はありません。ただ、いちばん弱いところを生け贄的に狙い打ちして暴利な賠償金を払わせるこのやり方に嫌悪感を覚えない人は少ないと思います。

そもそも著作権団体は音楽文化を守るためにあるのではありません。彼らは彼ら自身の利益をあげる為に存在するのです。いかに効率的に著作権料を徴収するかしか考えてません。宿主がどうなろうと知ったことではないのです。なので、「お前達のやり方が音楽業界を駄目にする」なんて批難を彼らにしても、「知ったこっちゃねえや」って言われるだけです。

音楽著作権団体はほぼ1団体の独壇場でもある上に、著作権を守る名目で、作家自身からも料金を徴収しています。お金を取った上で、その曲の著作関係の権利を、作家から取り上げるのです。レコード会社を通して曲を売るためには、作家は著作権団体に曲を預けるしかないような業界の仕組みになっているのです。利権ヤクザなんて言われるのも仕方がないです。

それに反発して、業界に頼らず、自らの手でネットなどを通して販売をする作家もいるほどです。音楽業界がある程度実力と権力を持っていた時代なら、それも通用するでしょうが、これから先、こういった業界の歪んだ制度が通用していくかどうかは大いに疑問です。レコード会社を通さなくても音楽が配信できる時代なんですから。このような業界の構造はもはや時代にあわなくなってきているのではないでしょうか。


■著作権は守られるべきだけど…。


ただ誤解しないでほしいのは、著作権を守らなくて良いと言っているのではありません。作家の生活を守るためにも権利は守らなくてはいけませんし、素晴らしい仕事や才能にはそれに見合った報酬が与えられるべきだと思います。しかしそれは権力で強制されるものでもないですし、作家以外の人間が過分にピンハネしていいものでもありません。

個々の作家が著作権を守るのは難しいので組織にという考えも理解できますが、現在の組織は純粋に著作権や作家を 守ろうという当初の目的からかなり離れていると言わざるを得ないでしょう。著作権団体はあくまで業界の発展や利益の為に存在するものでなくてはいけませ ん。音楽業界あっての著作権団体であって、著作権団体あっての音楽業界であってはならないと私は思います。


■知らない曲は買わないよ。


さて、話がそれてしまいまいたので、本題に戻りましょう。

そういう訳で昔に比べて、音楽に触れる機会は極端に減ってると思います。全く知らない曲を突然買おうと思う人はいません。当たり前です。聞いてもいない曲を どうやって好きになれっていうのでしょう。今、昔の曲を集めたアルバムがよく売れているのは、みんなその曲を知っているからでしょう。

80年代、90年代に活躍したアーティストが未だに売れるのは、当時、それらの曲に触れる機会があって、それらのアーティストに惚れ込んだ世代がいるからでしょう。また、アニソンと共によく売れているジャニーズも、そのファンの熱意に支えられてるからだと思います。

ジャニーズや昔の人気アーティストがなぜ人気があるのかというと、彼らがいい曲を提供している事を知っているから。だから積極的に情報を仕入れようという気にもなります。名も知らない、どんな曲を歌ってるのかもしらない人の音楽を聴くなんてことはありません。曲を知るのにはそれなりの理由がいるのです。今の一 般の音楽業界はその理由を叩きつぶしてしまっているから、人々が音楽から離れていっても仕方がありません。


曲を聴く(知る)

いい曲だと思う

曲を買う

気に入る

同じアーティストの他の曲も聴きたくなる。


音楽にはまりこんで行くには、こういう過程が必要なんですが、最初の段階が発生しないので、曲が売れなくなるのは当然です。新参のアーティストや新しい曲が売れない原因は、決して彼らや曲に魅力がないのではなく、その曲に触れる機会がないからでしょうね。

音楽に興味があっても、「金払わない奴は指一本触れさせてやんねえ!」なんて出し惜しみする人がいるのです。「ふーん、じゃあいいや」ってなるのは当然な話ですよ。無関心の人に価値を説かないまま買わせようとするのはナンセンスな話。自分から出し惜しみしておいて、相手に感心を持ってもらえない、買ってもらえないと嘆くのは、間違っている気がします。


■ではなぜオタク系の音楽は売れるのか。


まず、一つの大きな要因として、その音楽が耳に入る機会が多いということ。アニメを見たりゲームをしたりしていると、自然に耳に入って、それがいい曲であれば耳に残ります。アニメを見ることが曲を聴く動機となるのです。それを気に入るかどうかはまた別問題ですが、少なくとも耳に入る機会はできます。この耳に入る機会があるかなかとでは、売れ行きに大きく関わってくるのは説明するまでもないでしょう。

そして中にはその曲を歌ってるアーティストに注目する人も出てくるでしょう。声優音楽ブームなどはまさにその典型だと思います。

最近ではアニソンはその作品のプロモーション的役割も果たしているので、下手な曲はつかいません。ある程度聞いていて気持ちのいい曲が選ばれると思います。 特にオープニングに使われる曲なんかは、作品への期待を高める効果も狙っているので、聞いていると心地よい曲が多いです。だから耳にも残りやすい。

また電波ソングなどの形にはまらない奇抜な曲さえも受け入れられる雰囲気があります。曲のジャンルに囚われず、様々な曲調が使用される自由なところがまたオタク系音楽の魅力でもあります。


■視覚的相乗効果と想い出効果。


アニメやゲームの主題歌は、作品のオープニングやエンディングで使用される為、その視覚的相乗効果も生まれます。曲が作品を盛り上げるだけではなく、作品が曲を盛り上げるという見方もできます。視覚情報がプラスされる事により、曲の魅力が何倍にもふくれあがるのです。

また、その曲を聴くことにより、作品の事を思い出したり、その作品に関する想い出を誘発したりします。音楽にとって、それに関わる個人的な想い出というの は、たいへん音楽の評価に関わるもの。その曲に関する想い出があって、その曲が好きだという人も多いでしょう。主題歌というのはそういう想い出になりやすいものでもあります。


■エロゲソングのビジネスモデル。


エロゲの主題歌というものがあります。エロゲとはすなわちポルノです。なかなか一般には広がりづらいジャンルです。しかし、エロゲの主題歌を専門に歌っていたアーティスト達が、高い評価を受けています。そういう売りづらいジャンルにもかかわらず、なぜこれらのアーティスト達が認められていったのでしょうか?オタク系音楽が売れた理由の一例として、そこの所を書いてみようと思います。


■エロゲソングの歴史。



90年代、PCの音楽機能向上により、エロゲに主題歌を付ける事が簡単にできるようになりました。そんなエロゲソングの黎明期。エロゲの主題歌を歌う歌手が表に出るなんて事はありえませんでした。よくても仮名、悪ければ歌手未発表なんていうのも普通でした。

歌自体も、まあピンからキリまでありましたが、だいたいその辺の女の子捕まえてきて歌わせたようなものものも多かったです。しかし90年代終わり頃にエロゲの主 題歌を専門にする音楽集団、I'veというものが活躍しはじめました。I'veはユーザーに絶大的な支持を受け、アルバムを出し、人気を得ました。 I'veが主題歌を歌うからゲームを買うという人もいました。

絵やストーリーなどと同様、主題歌というのが大きなプロモーション要素になると気付いた各メーカーは、こぞって主題歌というものに力を入れ出しました。I'veが活躍を始めた2000年頃からゲームに使われる主題歌の質が底上げ されました。I'veを主題歌に採用するほか、メーカー独自のアーティストを発掘したり、I'veのような音楽集団が生まれたりしました。少なくとも聴けないような酷い曲を主題歌に採用するメーカーは激減しました。

この後、feelやUNDER17、ave;new、MOSAIC.WAVなどが続き、シンガーとしては、いとうかなこ、榊原ゆい、片霧烈火、理多、yozuca、Lia、Yuria、nana、rino(CooRie)、Uなどなどが活躍しました。

さらにI'veは、歌手の顔出しをして、個々にプロモーションをかけ、アニソン界にも参入して、武道館でライブをおこなうまでにまりました。エロゲソング歌手が顔出しして武道館なんて、昔は想像すらできなかったです。


■デモムービーやデモソングの配布。


彼らは元々、アーティストとしての実力があったのでしょうけど、ここまで評価されるようになったのには大きな理由がありました。先に述べた「視覚的相乗効果と想い出効果」などはもちろんですが、それ以上に他の音楽ジャンルではあまりやっていない事が出来たせいもあると思います。

それが、ネットや店頭で配布される”デモ”の存在だったのです。

近年では、エロゲの発売前にはデモムービーが配布されるのが当たり前になっています。デモムービーには普通、オープニングムービーが使われます。オープニン グムービーにはもちろん主題歌が流れる訳です。それを見る事によって、曲を知ることができる訳です。また視覚的相乗効果等が相成ってその曲を気に入る確率は増える訳です。

そのデモは無料で配布される訳です。ゲームに少しでも興味のある人なら、無料だから見てみようと思う人も多い訳です。また、店頭でも繰り返しデモムービーと共に流されます。店内放送では主題歌自体をを流している場合も多いです。店頭で流しても誰も文句を言わないどころか、 販売促進に繋がるのでメーカー側も推奨するでしょう。ちなみにエロゲソングのほとんどは著作権をメーカー側で管理しているので、著作権団体に言いがかりを 付けられる危険性もありません。

デモムービーの他に主題歌や挿入歌をデモソングとして無料配布している所も少なくありません。デモムービーも曲の配布も、基本的にワンコーラスだけです。フルコーラスを聴きたいがためにみんなサントラなどを購入します。きちんと購入する人のメリットも考えている訳です。

確かに中にはデモソングだけで満足してしまう人もいるでしょう。しかし、主題歌そのものに魅力や関心がある人の多くは、サントラや主題歌CDを購入するのです。さらに発展して、その主題歌を歌っている歌手のファンになって、他のCDなども購入するのです。この連鎖を馬鹿にはできません。こういうエロゲソング を歌っている歌手の主題歌集CDやオリジナルCDもたくさん売れているのです。

エロゲ業界は、一般の音楽業界が、ネットでのビジネス展開を渋っている時に、さっさとエロゲソングを売り込むためのネットを使ったビジネスモデルを作り出して、展開していたのですよ。エロゲソングが評価されるよ うになった背景にはこういった仕組みで曲がユーザーの耳に入りやすかったから、曲を聴くハードルが低かったから、曲を買う動機が作られていたからだと私は思います。


■同人ショップで広がる同人音楽文化


近年になって同人のジャンルで同人音楽というものが認識されだしました。私は10年前にEalia(土屋暁)氏からアルバムを売って頂いた時に初めて同人音楽という存在を知りました。そして5年後くらいに同人ショップの一角に同人音楽コーナーが出来ているのを見かけて、買うようになりました。

昔はかなりマイナーなジャンルだったと思いますが、最近は同人ショップやアニメショップなどで比較的簡単に手に入るようになって、一気に認知度が上がったと 思います。また、同人音楽ならではの文化も形成されています。ゲームやアニメのアレンジもありますし、オリジナルも多いです。中でも東方プロジェクトのアレンジ音楽、俗に言う東方系ジャンルの盛り上がりはすごいです。

こちらも、アニメやゲームのファンから入る人や、ネットで見かけたデモムービーやデモソングから入る人が多いです。イオシスあたりはニコニコ動画やYouTubeあたりで一大ムーブメントが起きたおかげで知名度が爆発的にあがりました。



■ネットで広がる新たな音楽文化。


ニコニコ動画やポットキャストなどのネットサービスを利用した音楽活動も活発化しています。ニコ動では「ボーカロイド」や「歌ってみた」「演奏してみた」な どの音楽関連動画が、それぞれ独自の文化を形成しつつあり、無名のアーティストに注目が集まっています。また、同人音楽サークルやインディーズバンドも、 ニコニコ動画やYouTubeなどをアピールの場として積極的に利用しています。

その裏で、一般の音楽業界は、自分たちの曲が使われている動画を消すのに大忙しです。せっせと自分たちの曲が視聴者の耳に届くことを阻止しています。確かに法律的には正義は権利者にあるんでしょうけど、本当にそれでいいんでしょうか?

積極的に曲を露出させようとするアーティストと、金を払わん奴には聞かせてやらんと出し惜しみするアーティスト。どちらがより人々に受け入れられるのかは火を見るより明らかでしょう。


■日本の音楽文化は死んではいない。変化してるだけだ。


日本の音楽文化は終わってはいません。こういったオタク系音楽を中心に、草の根の音楽文化が、大きく発展しようとしているところです。これは古いビジネスモ デルに固執し続けた現在の歌謡界が終わっただけの事で、日本の音楽が終わった訳ではないと私は感じます。現にオタク系音楽文化のなかでは、魅力的な楽曲が今でもどんどん生み出されているからです。

またボーカロイドなどの新たな音楽文化も生まれています。これは音楽文化の衰退にあらず、音楽文化の多様化と変化に過ぎないのです。大げさな事を言いますと、まさに音楽文化の革命だともいえるんではないでしょうか。中間搾取を無くして、ファンが アーティストを直接支える形態になる。中間搾取を無くす事によって、アーティストは多くを得て、ファンは安く曲を得る事が出来る。

これからの時代、音楽のビジネスモデルは大きく変わるでしょう。変わらざる得ないでしょう。そのひとつの成功例としてオタク系音楽文化はいい参考になると思います。

そしてオタク系音楽文化はこれからどうあるべきか。これからも自由にハードルを低く持って様々な事に挑戦して、さまざまな文化を生み出して盛り上がって言って欲しいです。変に一般歌謡界を意識する事無く、自分たちの道を進んで行ってもらいたいです。これからも期待する所、大きいです。可能であれば私も発信で きる側に参加できればいいなあって思っています。



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